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カウンセリング

認知行動療法と精神分析

日本では精神療法、カウンセリングと言えば、認知行動療法が主流と思われています。しかし現実には、認知行動療法で治療可能な患者さんは、ごく一部に過ぎません。

認知行動療法と精神分析との比較を、レストランに例えて、ご説明しましょう。

レストランに例えてみると…

まず、あなたがレストランへ食事に行く時のことを想像してみて下さい。
ファミリーレストランへ行くとします。最近のファミリーレストランは、食材の産地にこだわり、味付けにも工夫をこらした料理が並んでいて、日本中どこで食べても、一定の味わいが楽しめます。

安心して、リーズナブルに、一定の味の料理を、快適な空間で、日本中どこへ行っても味わえる、素晴らしい企業努力の結果と言えるでしょう。

ファミリーレストランと三ツ星レストランと…

さて、今度は値段は少々張るけれど、腕に覚えのある料理人が開く、三ツ星レストランへ食事に行くとします。
前もって、店側には、同行者がどういう人か、食材のアレルギーの有無、苦手な食材、糖尿病や高血圧など病気を患っているならそれら個人の事情を、伝えておきます。

店の料理人は、朝市場へ行き、食材を吟味しながら仕入をします。そして食材の一つひとつと対話しながら、味付けの濃さや、どの位火入れをするか、今日は気温が高いから味付けはやや酸を効かせようとか、今日は寒いから出汁は濃い目にしようとか、魚の大きさに合わせてどのくらい火を通そうかなど、同じ料理を作るにしても、食材の個性や季節によって、食材の扱い方、火の入れ方、味付けの仕方を毎日変えていきます。

更に同じ食材であっても、その個体差により扱い方を変えるのです。
三ツ星料理人がこだわるのは「食材との対話」なのです。

フランスの三ツ星シェフも、日本の優れた料理人も、国籍や料理の分野を問わず、多くの優れた料理人たちが皆一様に口を揃えて「すべては食材だ」と言います。

そして料理人は、その日の客の顔を思い浮かべながら、食材と対話しながら、料理を作るのです。

認知行動療法はファミリーレストランの様なもの

ファミリーレストランでは、同じメニューの調理の仕方はたいてい決まっていて、肉何グラムで何分間火を入れる、とマニュアル化されています。

このマニュアル化されていることにより、一定の料理の水準を保っており、素晴らしい知識と経験の集積と言うことが出来るでしょう。
しかしながら、三ツ星料理の様な細やかさはありません。

精神分析的精神療法は三ツ星レストランの様なもの

一方、三ツ星料理はマニュアルだけでは作れません。
優れた料理人は、塩小さじ何杯とか、何分間焼くと言った、数値化されたマニュアルではなく、「色を見て」「煙の臭いで」調理法を調整していきます。

数値化することの不可能な、しかし確かな感覚である色や匂いと言った、伝統とその上に成り立つ、料理人の長い修行や経験や知識が詰め込まれた料理、それが三ツ星料理なのです。

認知行動療法は精神分析を簡略化して生まれたもの

認知行動療法とは、アメリカのBeck先生が、精神分析の知識と経験を簡略化し、マニュアル化して作りだしたものです。

例えて言うなら、三ツ星レストランで修業した料理人(Beck先生)が、修業を終えて故郷へ帰り、自分の店を開くにあたり、何とかこの三ツ星料理(精神分析)を、安価で簡単に多くの人に提供できる方法はないものかと考えて、エッセンスを出来るだけ簡略化してマニュアル化し、誰でも同じ料理が再現できるようにと考え出したものが、認知行動療法だと言うことが出来るでしょう。

認知行動療法の治療目標は考え方の癖の修正

認知行動療法では、ネガチィブな思考に陥りやすい考え方の癖を修正することを目的としています。

例えば、「うちの部長はすぐ怒って周囲に怒鳴り散らす」
「自分が怒られているわけでもないのに、まるで自分が怒られているようだ」
と考えてネガチィブな思考に陥っていた人には、次のように考え方の修正を勧めます。

「うちの部長はすぐに怒って周囲に怒鳴り散らす」
「ああいう人なんだな、でも別に自分が怒られているわけではないし。
仮に自分が怒られたのだとしても、自分の間違いを怒られただけで、自分の全部を否定されているわけではない。部長に怒られたからって、そうそう悪いことが起こるわけではないんだ」
こういう風に、現実の捉え方を修正していきます。

認知行動療法はマニュアルで比較的習得しやすい

考え方の癖の修正が目的ですので、治療技法も、治療の目的も、非常に分かりやすく整理されています。
医師や臨床心理士は比較的技術を習得しやすく、今では精神療法と言えば認知行動療法 と言われるほど、一般的に普及しています。

認知行動療法は、料理でいうところの、塩小さじ何杯といった、誰にでも理解できて、実行出来るマニュアルが用意されていると言うことが出来るでしょう。

マニュアルの優れた効果であると思われます。

認知行動療法の治療

認知行動療法では、1回50分の面接を10回程度行うことが一般的です。

しかしながら、10回という限られた短い期間で治療を行いますので、10回の治療で改善が出来なかった、考え方の修正がうまくいかなかったという場合でも、それ以上治療を深めるような治療技法を、認知行動療法は持っていません。

精神分析的な治療技法はマニュアルでは習得出来ない

精神分析の治療の目的は、より深い所にあります。
物事の受け止め方の修正に留まらず、その人の人格構造や感情まで修正し、治療することを目指しています。

理屈では分かっているのだけれども、心が言うことを聞かないと言うことを、誰でも経験しているのではないでしょうか。
様々な人との関わりの中で成長する中で、人は一つひとつの好ましくない経験を覚えてはいないし、それを言葉で明確にすることはできないけれども、「感情が記憶し」「行動で繰り返す」のです。

すぐに怒鳴りちらす部長にビクビクするのは、もしかしたら、子供のころ、あなたの父親が何時も家族を怒鳴り散らしていたことと関係しているのかも知れない…。
精神分析的治療が目指すのは、心の中の父親像と対話し、部長に向けていた父親イメージを修正し、びくびくしているあなたの中の子どもの成長を促すことにあります。

部長がすぐに怒鳴り散らすのは、子供のころ、自分がそうやって育てられたことと関係しているのかも知れない…。
父親に怒鳴られ、寄る辺ない寂しさにさいなまれていた少年部長は、父に愛されなかったという悲しみを乗り越えるための援助が必要になるでしょう。

精神分析の治療

精神分析の目的を一言で言い表すことは大変難しいのですが、「意識ではすっかり忘れているのだけれども、感情が記憶している好ましくない体験」の集積を修正するのが精神分析の目的と言うことが出来るでしょう。
精神分析では、「無意識」を扱います。
人の心の中で「意識」と言えるものは、感知できる表面に現れたごく一部に過ぎず、その背後には広大無辺の無意識が広がっていると考えます。
感情はこの意識と無意識の両側に存在し、人は無意識を感情で表現するのです。

精神分析の治療技法は、マニュアル化できません

ファミリーレストランの料理の様に、認知行動療法の様に、精神分析はマニュアルで行うものではありません。
三ツ星料理人が、長年の修行を経て、食材の個性や、色や煙の匂いを感じながら食材と対話しながら料理をするように、精神分析は、一人ひとりの無意識に思いを巡らせ、感情や思考を感じ取り、考えていく作業です。

また、マニュアル化出来ないからこそ、精神分析家は長い長い修業期間を経なければなりません。修行に終わりがない、ということさえ出来るでしょう。

日本で精神分析家の数が多くない理由、精神分析が一般化されにくいことの最大の理由の一つは、修業期間の長さ、技術の習得の困難さ、指導者の少なさ、などにあるでしょう。

最近の医学の動向

最近の医学では、統計が重要視されます。

ある治療を行うことにより、何%の治癒を得られたか、その治療を年間何例こなしているかと言った、数値や数の多さが治療の信頼性と同義で評価される傾向にあります。

精神分析は完全オーダーメイドの治療です

しかしながら、精神分析は、一人の精神分析家が引き受けられる患者さんの数は非常に限られています。沢山の数を引き受けることができない、完全オーダーメイドの治療です。

しかし、人の感情や人格構造を修正する方法として、精神分析以上の方法を、少なくとも私は他に知りません。
認識を修正するのではなく、感情を修正するとなると、治療期間も相当長くなります。
1回50分の面接を、果たして何回行えばそれが可能なのでしょうか…?

それは「あなた次第」としかお答えできません。
精神分析は、何年もかかるかも知れない。
でもそれは、人生の意味が深くなる体験と言えるでしょう。

認知行動療法と精神分析的精神療法の治療成績の比較

  1. 10回の認知行動療法と、10回の短期の精神分析的精神療法
    を行った場合の治療成績では、どちらもほぼ同程度の治療効果があると報告されています。
    (1999 Luboesky et.al )
  2. 人格障害の治療に関しては、精神分析的精神療法は、
    認知行動療法等の心理療法に比べて、優位の効果があるとされています。
    (1999 Beteman and Fonagy)
  3. 1年以上、精神分析的精神療法を行った場合
    不安障害、人格障害の治療効果研究のメタアナリシスから、精神分析的精神療法は、他の治療法に比べて優位に改善効果があると報告されています。
    (2008 Leichsering and Rabung )
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