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うつ病は診断されすぎている・・・?

[2015.12.20]

かつては精神科と言うと偏見に満ちた目で見られがちでしたが、最近では、心療内科、メンタルヘルス科等と親しみやすい名称で呼ばれるようになり、精神科の敷居が低くなり、誰でも気軽に受診出来るようになったことは大変喜ばしいことですが精神疾患ではない患者さんたちも気楽にメンタル科・心療内科を受診出来る様になり、時に過剰な診断を受け、必要のない投薬治療を受けることになりかねないことも、考えなければなりません。正しくない診断のもとに、受ける必要のない投薬治療を受け、更に悪い場合には改善が見込めないまま休職や休学を余儀なくされることも起こり得るとしたら・・・非常に憂慮すべき深刻な問題です。

うつ病が増えていると言われていますが、私はうつ病が増えているとは考えていません。
鬱状態や無気力状態を呈する人は確かにもの凄く増えていますが、うつ病以外の要素で無気力状態に陥っている人が増えている、と考えています。

1990年代の終わり頃から、余りに精神病理学の概念からかけ離れた病態の若い患者さんが増えているという印象を持っていましたが、精神科医が何人か集まると「最近は診断の難しい患者さんが増えた」と話し合われたものでした。

精神病理学で診断出来ないのは何故でしょう・・・?
恐らくは、栄養障害や他の何らかの生化学的なアンバランスが原因で、憂鬱や無気力状態など、精神の不調と間違えやすい状態に陥っている患者さんが増えているのではないかと私は考えていますが、だとすれば精神病理学で診断できないのはむしろ当然で、診断には生化学的な理解が必要になってきます。

疾病特異性からいって10年単位で疾病の構造が変わるとか、新しいタイプの精神疾患が急激に増えると言うことは、疫学的にも考えにくいはずです。
私の理解が間違っていなければ、精神疾患というものは、あらゆる文化圏において発病率に差が無い、いうことが前提ですので、発症率に大きな差があるとしたら、文化の影響を受けやすい疾患の可能性を考えなければなりません。

憂鬱や無気力などの精神の不調を訴える患者さんたちの多くは、

  1. 本当にうつ病にかかっていて、憂鬱な状態に陥っている場合
  2. 栄養障害や神経疾患等の、精神疾患以外の理由で憂鬱になっている場合
  3. 職場や学校への不適応などの、ストレス関連による場合
  4. パーソナリテイに偏りがあって、薬が効きにくいにも関わらず、投薬治療

だけが行われていて、カウンセリング等の適切な治療が行われていない場合の4つに分けられると考えています。

私は精神科医ですので、精神疾患を治療することが専門ですが、精神疾患以外の原因で鬱状態や無気力状態を呈する患者さんが増えているという現実がある以上、それらにも対処するべきだと考えて、生化学や分子整合医学を学んでいます。

言うまでもないことですが、無気力の原因は栄養障害だけで説明できるものではありません。鬱病の原因は栄養障害や血糖コントロールの悪さにある等と決めつけてしまうとしたら、これもまた一方的な見方だと言えるでしょう。

最も難しい問題は、憂鬱を訴える患者さんに対して「うつ病ではない」と判断することで、これには相当な熟練と勇気を要します。

精神病理学の知見を持って精神疾患の診断をし、精神分析的・力動的理解を持って臨床にあたり、分子整合医学の知見を持って栄養障害を治療していく、という複数の分野にまたがる知識と眼視的な見方や判断が要求される領域です。

ある大学生の例をご紹介しましょう。
Hさんは、20歳の難関大学に通う学生さんです。1~2か月位前から朝起き上がれなくなり、友人に会うのも面倒で、何をするのも億劫、家から出らなくなり、登校も出来ず、御自分からうつ病ではないかと思われて、大学を休学しようと、鬱病の治療と、休学の為に必要な医師の診断書を希望して、みゆきクリニックを受診されました。

詳しく話をきいてみたところ、うつ病ではないと判断しました。
うつ病ではないと積極的に判断するのは、簡単そうに思えるかも知れませんが、実際にはこれが一番難しいところで、精神分析的・力動的なパーソナリテイ理解が非常に役に立ちます。

何故Hさんが鬱病ではないと判断したのかは専門的になり過ぎるので詳細は割愛しますが、Hさんには、うつ病ではないだろうこと、栄養障害による神経症状が疑われること等を伝え、どの栄養素が不足しているのかを調べる為の血液検査を行い、その結果に即してサプリメントを処方しました。同時に食事指導を行い毎日の食生活を改善するよう説明しました。

難関大学に現役で合格される程聡明な方ですので、Hさんはすぐに理解を深め、食事にも気を配られるようになり、サプリメントも毎日欠かさず服用されました。
1ヶ月後、見違えるほど改善したHさんは、本来の明るく快活なご自分を取り戻し、大学を休学することなく、通学を再開されました。
今は1か月に1回の通院で、サプリメントの服用を続けて頂いています。

恐らく、世界中の精神科医の多くがHさんを診察した場合、「鬱病」と診断し、抗鬱薬を処方するでしょう。しかし服薬をしても症状がなかなか改善しないので、長期にわたり抗鬱薬を飲み続けることになったかも知れず、本当に休学を余儀なくされたかも知れません。若い有能な大学生が、若く貴重な時期を投薬と休学で過ごさなければならなかったかも知れず、Hさんの人生は大きく変わっていたかも知れません。

医療経済学から見ても、Hさんをうつ病として診断して抗うつ薬を処方していたら、Hさんが支払ったサプリメントの費用の何倍もの医療費がかかったことでしょう。
それだけではなく学生さんには税金も使われていますので、税金のロスも生じたかも知れません。
Hさんの様に、全ての若い人の無気力が栄養障害にあると言うわけではありませんが、積極的な鬱病の除外診断(実はこれが一番難しい!)とサプリメントの服用が有効だった例です。

私は決して薬は必要ないなどと言っているのではありません。
もし本当に鬱病になった場合には、迷わずお薬を飲むことをお勧めします。
念のため・・・。

私が常に心がけている、良識ある医療の本来あるべき姿とは、無用な治療や投薬を避け、必要最小限の治療を心がけることにある、と考えています。

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