A氏 3
[2011.02.09]
A氏はその後、日本に住む同じB国出身の女性と結婚しますが、
信じられないことですが、A氏の妻は、夫が義足であることに、結婚して半年間、気付かなかったそうです。
妻にも話を聞きましたが、本当に分からなかった、と言っていました。
そのくらい、A氏の歩行は義足であることをまったく感じさせない、自然なものでした。
私もまた、A氏が義足であることを信じられない、という顔をしていたのでしょう。
ある日診察室で、A氏はズボンの裾を上げ、義足を見せてくれたのですが、
確かに、本当に、両足とも、膝関節の上から義足でした。
義足であることを隠し、A氏は働き続けました。
義足であることも、文字の読めないことも、まったく人に悟られることなく、
A氏は独力で日本での生活を築き、結婚し、家族を養い、戸籍のないまま、
日本に定住したのでした。