しかし、数十年にわたる想像を絶する苦労は、彼の精神を蝕み、ついには幻覚妄想状態となって、
精神病院に収容され、そこで私が担当医となったのでした。
入院して、A氏の幻覚妄想は急速に改善し、程なく、全く問題のない平常状態に戻りました。
A氏は、決して快適とは言えない精神病院での生活を、心から堪能しているようでした。
暖かい部屋で、三度の食事を提供され、明日のことを心配せずにいられる、
日本に密入国して以来、こんなに手厚い保護を受けたのは初めてだ、と言って心から感謝していました。
そういうことからも、A氏の人生がいかに過酷なものだったか、想像できるでしょう。
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