F子さん 1
[2024.10.01]
F子さんもまた明治生まれの、戦争未亡人の女性でした。
若くして夫を亡くし、女手一つで二人の子供を育てあげ、老年期に入ってうつ病となり、
主治医の内科医から紹介されて、私のところへいらっしゃいました。
彼女は学歴から言えば小学校を出ただけでしたが、いつもユーモアに富み、
冗談を言っては笑わせてくれる、知的でチャーミングなおばあさんでした。
F子さんは小さなアパートで一人暮らしを続けていましたが、
息子さんは優秀な成績で某国立大学を卒業し、老舗企業に就職され活躍されており、
娘さんは、「シンデレラの様な結婚をした」とF子さんは表現していましたが、
非常に立派な家庭に嫁いでおられました。
時々、子供たちが孫を連れてF子さんを訪ねてくることを心待ちにし、楽しみにされていましたが、
御自分からは決して子どもたちの家を訪ねていくことはなさいませんでした。
「だってね、こんな母親がいたら、子供たちが恥ずかしいじゃない?」
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