抑うつの意味 精神分析的精神療法と分子整合医学 14
前回、悲しみや抑うつは、攻撃や怒りに対する償いであり、
他の感情よりも高度なものと精神分析は考えると書きました。
これはつまり、安易に抗鬱薬で憂鬱な気分を改善しない場合もある、と言う考え方も成立するのです。
統合失調症などの精神病の症状が悪化して、症状が沈静化した後に、時々抑うつ症状を呈することがあります。
これを「後精神病抑うつ」 と呼んで、このような場合には、充分に抑うつを体験した方が良いので、
安易に抗鬱薬を使うべきではない、とかつては考えられていました。
また、後精神病抑うつを呈する患者さんは、それの無い患者さんよりも予後が良い、とも考えられていました。
SSRIの登場で、そのような考えは一変したような印象があります。
鬱はあたかも排除すべき悪いものであるかのように扱われ、
鬱になったら、出来るだけ早く薬を飲んで抑うつを改善する、という考え方の方が
抑うつを味わう などということより、
ポジテイブ思考、効率を重視する社会の要請にも合っています。
薬のなかった時代、精神分析は、じっくりと時間をかけて、この悲哀や抑うつと向き合いました。
私の印象、私見ですが、SSRIのなかった頃の方が、鬱の患者さんは、良く治りました。
今では、精神分析的カウンセリングを行いながら、同時に薬の服用を続けて頂くことが殆どですが
悲哀や抑うつを中心テーマに置くことに変わりはありません。
鬱は、何か悪いものの様に言われてしまっていますが、本来、悲哀も抑うつも、高度な人間の精神活動の表現です。
精神分析を通して、悲哀や抑うつを充分に体験することは、人の精神性にとても意味のあることだと思っています。