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多剤併用療法(2)必要のない処方?

[2024.09.21]

新薬の恩恵

近年の医薬品の開発は、目覚ましいものがあります。
今まで治療困難だった患者さんの症状が改善できるようになったことは、非常に大きな福音です。

必要な薬はしっかりと服用

薬が必要な状態の患者さんは、症状の改善に必要な充分な量を服用し、
症状が改善した後もその安定を維持するために、しばらくの間、服用を続けることで、
症状の悪化、再発を防いでいくことが必要な場合もあります。


薬の減量はとても難しいので、医師と相談しながら行って下さい。
決して自己判断で薬をやめないで下さい。

 

必要のない薬は必要ない 

しかし、治療を薬だけで行おうとすると、多剤併用になりがちです。
この症状にはこの薬、あの症状にはあの薬、としているうちに、どんどん薬が増えてしまうことがあります。

診断基準だけで判断し、表に現れた症状だけで診断する医師が増えたことも、
多剤併用になりやすい原因の一つと言えるかも知れません。

表に現れた症状は、言わば病のまとう衣の様なもの、
症状だけを見ていては、正しい診断も治療も出来ないと、私は考えています。

過食嘔吐の多くは薬では改善出来ない

例えば「過食嘔吐」を例にとってみましょう。
過食嘔吐の本質は病態は様々で、統合失調症によるものから、一時的な不適応によるものまで、「病態水準」は様々です。

「過食嘔吐」という衣をまとっていても、

統合失調症が背景にあるのか
パーソナリテイ障害によるものなのか
インスリン抵抗性から起こっているのか

あるいはそのいずれでもないのか、


病態水準を見て、症状をダイナミックに理解していかなければ、正しい判断は出来ません。

でも、残念なことに、このダイナミックな理解を持つ医師は、極めて少数です。

パニック発作はパニック障害とは限らない

パニック障害は、夜間就寝中にも起こる疾患である、というパニック障害の専門家がいますが、
これは大きな間違いです。

パニック障害とは、アゴラフォビアの関連疾患であり、群衆の中における孤独、
と言ったものが発症の契機に存在するもので、就寝中に起こるパニック発作は、別の誘因で起こります。

「パニック発作」という表に現れた症状だけで判断するから、このような間違いが起こるのです。

 

パニック発作と低血糖発作はとてもよく似ている 

みゆきクリニックにも、他院から転院してきた患者さんで、
パニック障害の診断で長年SSRIを服用していらした患者さんがいました。しかしながら、

よくよく話を聞いてみると、その患者さんはパニック障害なのではなく、
就寝中に低血糖を起こしていたのです。


パニック障害の症状と、低血糖発作の症状は、殆ど同じです。

低血糖発作の場合の治療は、SSRIの服用ではなく、生活習慣や食事の改善です。


パニック発作か、低血糖発作か

動悸がする、息苦しくなる、突然起こる発作、という表に現れた症状だけで診断をしようとすると、
パニック障害の症状と低血糖発作の症状は殆ど同じですので、間違えてしまいます。

どういう状況で症状が起こるのか、
その人の日常生活や、背景にある人生の文脈の中で判断していけば、大きく間違うことはないのですが、

このようなダイナミックな見方は、患者さんの為にはとても有用であるにも関わらず、

急速に医療の世界から、消え去ろうとしています。
とても残念なことです。

医師に必要な精神分析学

学生運動が激しかった時期、当時の東京大学精神科教授だった土居健朗先生が
「精神分析などというプチブル的な学問が、果たして患者の役に立つのか!」 と詰め寄る学生たちに


「患者に必要なんじゃない、医者に必要なんだ!」
と言って、学生たちを一喝した、と言う逸話を聞いたことがあります。

精神分析学は医学の世界から消えようとしている

精神科医にとって、精神分析的・力動論ほど有用な診断・臨床技術はないと思うのですが、
残念ながら、この重厚長大な学問を学ぼうとする若い医師は、殆どいなくなってしまいました。

手軽さが優先される現代では、難解で扱いに手こずる重厚長大な学問は、好まれないのでしょう。
本当に残念なことです。

 

 

 

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